うららかびより

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映画「ヘブンズ・ドア」を観た(ややネタバレ気味)

昨日は新宿ジョイシネマにて、長瀬智也主演の「ヘブンズ・ドア」を鑑賞。半年くらい前から、あちこちの映画館で予告編がかかっていて、おまけに監督はアニメ映画「鉄コン筋クリート」(久々にぐっときたアニメ映画だった)のマイケル・アリアスということで、気になっていました。余命幾許も無い男と少女が、盗んだバイクならぬ小粋なマセラッティで、海を目指す。先天性の病で14歳の今まで海を観たことも無い春海と、なにもできなかった人生の最後くらい、かっこいいエンディングが欲しくなったんだとうそぶく勝人。ところが、その盗んだマセラッティの積み荷がまた問題で、彼らはそれをきっかけに警察と怪しげな組織、両方から追われることになります。
1カット1カットのつながりが時々とても唐突だったり、気になったところは無かった訳じゃないけれど、映像は総じて奇麗。ただ、現実味はあまりなくて、本当の世界からちょっとずれたファンタジックな世界が、絵画のように展開されて行きます。物語自体もおとぎ話のようで、リアリティ至上主義者にはちょっと食い足りないかも知れません。赤くて黒い服を着て、世の中に対してすねたあきらめも持っている勝人と、青くて白い服で、まだ世間を知らず純粋な女の子の春海。パンフレットで監督自身が言及しているように、「鉄コン筋クリート」のクロとシロがすこし姿を変えて肉体を持ったかのようでした。
ただ、「鉄コン」のような高揚感や、時々ぐさっと刺さってくる言葉が、この作品にはあまり感じられませんでした。どっちかというと淡々と、それでいて勝人と春海のことがよくわからないまま、彼らにひたすら都合よくことが運んで行くのです。リアルに生きる私たちの心にくさびを打ち込むというよりは、ひたすら奇麗なおとぎ話で最後まで終わりたい風情。だから私は、この物語の中にもう一つ、踏み込めなかった。例えば、不破万作演じるおっさんのガソリンスタンドや、郵便局でお金を奪う時の勝人に、まったく良心の呵責が感じられない点。その辺に、やや違和感を感じました。そりゃ「成り行き上仕方ない」のかもしれないけど、あんまりあっさりしすぎてないか。彼にとってはその時点でそれが最善の策だったのかもしれないけど、一応、今いる世界を縛るきまりを破ってるのに。そもそも彼がそういう思考を持つまでに至った経緯はおろか、そもそも彼という人物を表すシーンがあまりないので、私にとってはそれがちとわかりにくく、飲み込めなかったです。
そりゃ、余命いくばくもなければ、心細かったりやけっぱちになったりして、いろんなことやりたくなるだろう。でもやりたくなるまでの心の動きが、あまり伝わってこなかったんです。もうちょっと説明的な描写をしてもよかったんでは?観客の感情を、スクリーンの中へ導入するための手段として。それまでの生の道のりをにおわせる場面が少しでもあれば、唐突な余命宣告の重さ、もうちょっとわかってくるんです。それが少し中途半端だから、結果として、このお話における死は、対面にある「生」をきらきらと輝かせるレフ板としての機能を果たすだけで終わってしまった。死と向き合って、初めて生のありがたみを理解する。それは一見とても奇麗な流れのようだけれど、逆にそれを観ないと身の回りの輝きを知ることが出来ない、感じることが出来ないのって、実はとても悲しいことなんじゃないだろうか?誰にとっても不可避だからこそ、「死」もまた「生」と同じ価値があるはず。納得のいく生が有ってこそ、納得のいく死が訪れるんじゃないだろうか。そう思うと「最後くらいかっこいいエンディングが欲しい」という言葉は、ずっしりと重く、消化しきれないまま胃の中に残ります。感動というよりも、むなしさとかなしさを伴って。でもそんな勝人の人生が、最後まで私には伝わってこなかった。彼の奥にある深みや悲哀も、また。
あと、予告編やテレビCMに大事な場面の台詞を使いすぎ。人によって感じ方は違うでしょうが、私は萎えました。
なんだか、惜しいなあ。詳細まで丁寧に作られているし、監督の映画、映像に対するまっすぐな姿勢も感じるけど、もう一歩踏み込めない感じ。先の丸まった鉛筆みたいに緩い感じ。描き方によってはもっといい作品になれたんじゃないだろうか…と思ってエンディングを観ていたら、エグゼクティブプロデューサーにフジテレビの亀山千広氏の名前がクレジットされていて、それで「ああ」と悪い意味で納得をしてしまった自分がおりました(苦笑)。そっち方面からもうちょっと、遠いところで作れればよかったのにね。
監督の次回作が公開されたら、また観に行くつもりです。「鉄コン」の遊び心、イマジネーションの発露がまた観たい。かの映画つながりの某俳優が、意外な形でカメオ出演を果たしていたのには、ニヤリといたしました。
とまあ、こんな感じでちとモヤモヤしたので、元となったドイツ映画「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」を観たくなりました。こっちはおっさん二人のアクションコメディ的要素の強いロードムービーとのこと。さて、どんなかな。

以下余談

この映画を見てる間、一列後ろに座っていた男の子がしょっちゅう私の隣の席を蹴るので、音と振動がもう気になって気になって(泣)。明かりがついてるうちに注意しなかった私も悪いんですがやっぱり腹立ったなあ。そもそも、補助クッションを尻の下に敷かないと観られないような年齢の子に見せる映画なのか、という疑問が。あげくの果てにはエンディングに一瞬画面にでっかい影が映った!と思ったら、その親子が席を立つときに、わざとではないでしょうけど補助クッションで映写機の前を一瞬遮ったんです。最後までやってくれるわ(苦笑)。