読了:伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/12/21
- メディア: 文庫
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まず、彼の世界の中のさまざまな情景を、フラッシュバックのように切り取ってみせてくれる。それは一見てんでんばらばらなんだけど、90度視点を変えてみるとあれやこれやとまあ、つながっていくわいくわ。わかった瞬間は、どんなホラーよりも背筋がぞくぞくします。
放たれた意思は、誰かに伝わって、どんな形であろうと実る。そして世界の色味を、少しだけ変える。たとえ誰かにはくだらないように見えても、行動には意思がある。意思はリンクし、循環する。だから、世界は見捨てられない、見捨てるもんじゃないと。このテーマはむしろ、後の作品である「フィッシュストーリー」のほうが顕著かもしれないけど。いろんなスタイルの話を書いているようで、言ってることはすごく一貫してるなと思います。だから、信用できる。あと、節々に出てくる、ロックンロール的なものや、言葉がどうにもつぼでニヤニヤしました。
あんまり話自体について書くとぽろっと核心を書いてしまいそうで、はらはらするんであんまり書きません。下手したら、鼻水と涙でべたべたの悲劇で終わりそうなこの物語。それでも読後感が重苦しくないのは、何でだろう。彼らの意思が、この世から消えるその前に、あの頼りない彼に伝わったように思えるからか。いや、思いたいからか。そして、意思のリンクは続く。きっと、人が地上からいなくなるまで。そしてこうしてるうちに世界のあらゆるところで、意思の化学反応を起こして。
しかしこれ、映画版はどうやってんだろうな…。