うららかびより

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井筒監督作品「パッチギ!」

1968年、京都。ごくふつうの高校生活を送る主人公・康介(塩谷瞬)は、ある日担任から市内の朝鮮高校へ親善サッカーの試合開催を申し込みに行かされる。同じ日本、同じ京都にあるはずなのに、どこか近くて遠いその世界に戸惑う康介は、ふとした弾みで迷い込んだ音楽室で、フルートを吹く可憐な少女・キョンジャに一目ぼれ。彼女の事が知りたい一心で、言葉を学び「イムジン河」という歌を練習する康介。その気持ちはキョンジャに通じ、少しづつ康介は彼女の周りの人たちに親しんでいく。そのまま、壁は失われていくかに見えたのだが…。

…すみません、わたくし粗筋を書くのがものごっつへたですね…。詳しくは「パッチギ!」公式サイト:http://www.pacchigi.com/に任せます。


先日「終戦のローレライ」を読んで生まれて初めて泣いてしまったと思ったら、今度はこの映画を観て生まれて初めてスクリーンで泣いてしまった。年を取るのはこういうことか、という自問は置いといて…素晴らしい映画だった。作り手のメッセージが、空気を通じてビリビリ、ビシバシと伝わってきた。

以下たたみます。長いしちょっと熱くて恥ずかしいので。ここから先は暇な人が観てください。よっこらしょーい。

この映画で繰り返し登場する「川」というモチーフ。それは朝鮮半島の北と南を物理的に分断したイムジン河を差すだけではない。人の心の中に簡単に出来てしまう、「隔たり」も意味している。欲望を成就するため、或いは保身の為に人は「自分と近しいもの」「そうでないもの」を線引きし、自分の領域を囲い込んで作り上げる。それはある意味、仕方のないことかもしれない。しかし自分の領域外についての「理解」を放棄する事から、悲劇は生まれる。そもそも自分と他人が居て、その間に「世界」があるんじゃないか?そんな単純な事を、なんで私たちは簡単に忘れてしまうのか。北と南、在日と日本人。そうやって隔てられることによって生じる軋轢。元々は同じコミュニティに存在しながら、線を引かれただけでお互いの事なんて簡単にわからなくなる。自然には存在しない、人が勝手に作った隔たり。物理的な隔たりより、深くて冷たいもの。

純粋無垢は、果たしてあがめられるほどの特質だろうか?好奇心は猫も殺す事があるが、無垢が転じた無知という奴は、時としてどんな刃物よりも残酷だ。劇中、チェドキの葬式シーンで、康介はそれをこれでもかというくらい、思い知らされる。知らないこと、それ自体が罪だった。傷つけていた。この壁は越えられないのか。諦めるしかないのか。しかしそれでも、越えたい、岸の向こうに居るあなたの事が知りたい。思う事が全ての始まり。そんな意思こそが、希望を繋ぐんだ。ギターを叩き壊しても、それでもイムジン河を歌った康介。アンソンのぶちかますパッチギとは形こそ違うけれど、それは彼なりの方法で自分とキョンジャの間に横たわる隔たりに対してかましたパッチギだった。かましてみないと始まらない。それはでっかい第一歩だった。

人と関わるのはしんどい。それでも、誰かと繋がっていたいと思う。知りたいと思う。たとえ笑われたって、全身全霊を込めて。繋がれそうでつながれないもやもや感を、ガチでぶっ飛ばして、他人が勝手に作った線なんて蹴散らして。その向こうに広がっている清々しさ。井筒監督作品の、こういうところが好きだ。関西マナーのギャグもバッチリ入ってるところも好きだ。あのマッシュルームカットは、絶対○○○と言われると思ってた…(笑)。

「泣ける映画」が宣伝の常套句になり、「説教くさい台詞を連発する映画」がメッセージ性の高い映画といわれるようになったのは、いつからだろうか?それらは決して、同義ではないと私は思うのだが。具体的な形にしなくても、伝わるものは幾らでもあるのだ。「泣く」ということは目的ではない。「心が揺さぶられる過程における一つの事象」に過ぎない。それ自体が目的と化している表現に、私は何も思わない。作り手の思い通りにコントロールされてるだけじゃんか。形にならなくても、伝わるものなんて幾らでもあるのだ。


以下余談。

  1. 高岡蒼佑は、やっぱりワルなヤングを演じてる時が一番カッコいいなあ。『青い春』の雪男役は、陰があるナイーブな感じだったから少し違うけれど(バトロワは観てません)、アンソンはこれでもかっていうくらいはまり役だった。森田まさのりの絵柄のような顔してる、というのも大きいのだろうな。
  2. ガンジャ役の真木よう子さん、可愛かった!看護婦さん姿にドキドキ。嫁にしたい…(間違い気味)。
  3. オダギリジョーが段々と故ブルーザー・ブロディになってく姿にププッときたものの、いつの間にかバイオグラフィーからクウガの名前が外れているのに一抹の寂しさを覚えてみたり(爆笑問題の番組にレギュラー出演していた時「僕、喧嘩弱いですから」「バイク乗れません」とやたらライダーについて否定的な発言はしていたけど)。実家が酒屋だったし、本当に坂崎さんテイストだったなあ。
  4. おさむちゃんがあまりにもおさむちゃんだったのに笑った。
  5. 前田吟や笹野貴史などの、渋い脇役も良かったッス。
  6. 大友康平、出番少ないけどいいキャラだった。
  7. はじめてスクリーンでみた加瀬亮が、あんなクネクネでもうどうしようかと…公式サイト(http://www.anore.co.jp/kase/index.html)の写真観たら、割と好みだったりするんですが。もうこれからはどこでどう見かけてもあのクネクネを思い出してしまうに違いない…。男前なのに…それだけはトホホホ。